からかい上手の高木さん短編小説。 俺と高木さんは3年へと進級した。 高木さんと一緒にいられるのも、あと一年。 来年の春には高木さんが居なくなる。 俺にとっても大切な一年間だ。 そして今回もまた、俺は高木さんと同じクラスになる。 3年間も同じクラスになるのは本当に奇跡的な事だ。 ー そして進級してからの初登校の日。 新しい教室に足を踏み入れた俺は、いきなり背後から誰かに声を掛けられた。 「西片、おはよう。 」 思わず俺は後ろを振り返る。 すると、俺の目の前に、高木さんが白い長袖のセーラー服を着て立っていた。 その高木さんの姿を見た俺は、いつもの通りに朝の挨拶をする。 「おはよう。 高木さん。 」 すると高木さんは俺の顔を見つめながら話した。 「ねぇ、西片。 今回もまた、一緒のクラスになったね。 今年最後の一年間、よろしく。 」 それを聞いた俺はなんだか恥ずかしくなり、高木さんの目線を外しながら話した。 「う、うん。 よろしく…」 高木さんに朝の挨拶を済ませると、俺は新しい教室の席へと座る。 今回もまた、俺と高木さんは教室の一番後方で、机を一緒に隣り合った席だった。 これで3年間、俺と高木さんは同じ隣り合った席になる。 本当に奇跡的な事だ。 ちなみに今回の席の配置は、高木さんが教室の後ろの扉に近い廊下側の席で、俺は外の窓際側に近い、左横の席だった。 この席の配置は、一年の時の席替えで経験している。 高木さんも、新しい教室の席へと座ると、さっそく俺に話し掛けてきた。 「ねえ、西片。 」 高木さんに話しかけられた俺はピンとくる。 "高木さん。 さっそく、俺をからかいにきたのか?" 俺はからかわれるのを警戒しながら、高木さんの方に顔を向けて話した。 「なんだい?高木さん。 」 ー その時、俺の左横の席から誰かの声が聞こえてくる。 「西片くん。 おはよう。 」 その声に思わず反応した俺は、顔を左の席の方に振り向いた。 すると、そこにはひとりの女子生徒が座っている。 女子生徒は俺の顔を見つめながら微笑んでいた。 微笑んでいる女子生徒は、黒髪のフワッとしたボブヘアーで、黒い瞳の目がクリッとした、可愛い印象の女の子だった。 " あれ?誰だっけ?" 俺の名前を呼び、俺の顔を見つめて微笑んでいる、この女子生徒を俺は誰だかわからなかった。 俺はドギマギとしながら話し掛ける。 「おはよう。 えっと…誰だっけ?」 「えっ、西片くん。 私を知らないの?1年から2年まで西片くんと一緒のクラスだったんだよ。 」 女子生徒は驚きの顔を見せながら俺に話した。 「1年から2年まで、俺と一緒のクラスだった…?」 「もしかして、西片くん。 2年間も一緒のクラスだった私を覚えてないの?三原だよ。 」 「三原…」 どうしても俺は思い出せない。 そもそも俺は、高木さんと、中井くんの彼女の真野さんしか女子生徒は知らないのだ。 他の女子生徒は話しかけられた事もないし、自分から話しかけた事もない。 それなのに、この三原という女子生徒は俺を見つめながら話しかけてきた。 「三原さんか…ごめん。 覚えてない…。 」 「そうか…西片くんは私を覚えてないんだね…それだけ私は影が薄かったんだ…。 」 俺の話しを聞いた三原という女子生徒はガッカリとした顔をする。 すると、高木さんが明るい笑顔を見せながら、三原という女子生徒に話しかけた。 「あっ、三原さん。 おはよう。 」 だが、三原という女子生徒は高木さんの方には振り向かず、顔を正面に向きながら、素っ気ない感じで高木さんに返事を返した。 「おはよう。 高木さん。 」 それを見た俺は違和感を感じる。 "アレ?三原さんは、もしかして、高木さんの事を嫌っているのか?" 俺は右横にいる高木さんの方に振り向く。 すると、三原という女子生徒の素っ気ない返事を聞いたせいだろうか。 高木さんはちょっと顔に苦笑いを浮かべていた。 ー そして、朝の朝礼が終わり、一時限目の授業が始まった。 一時限目の授業はあの、俺のクラスの担任で、怒らしたら怖い英語担当の田辺先生の授業だった。 (英語が担当なのに何故か、体育会系のジャージー姿。 俺はこの田辺先生から目をつけられている。 今回も授業中に騒いだら、また、教室の掃除を俺一人でさせられるかも。 そう思った俺は、ピンと背筋を伸ばし、真面目に授業に集中した。 だが、真面目に授業を受けている俺に、高木さんは容赦なくからかいにくる。 俺にとっては一番の弱点、わき腹を高木さんはツンと指で刺したのだ。 俺はわき腹を指で刺された事で思わずこそばゆさを感じ、大きな声が出そうになった。 大きな声が出そうなのを我慢した俺は、高木さんに声をひそめながら話す。 「やめてよ、高木さん。 「先生!高木さんが先ほどから、西片くんが勉強をしているのを邪魔しています!注意してください!」 三原という女子生徒は高木さんを指差しながら大きな声で話す。 それを聞いたクラスメイトは高木さんに注目した。 田辺先生は頭を掻きながら、座っている高木さんに向かって質問した。 「本当か、高木。 西片の勉強の邪魔をしていたというのは。 」 「・・・・」 高木さんは先生の質問に何も答えない。 クラスメイトは相変わらず高木さんに注目していた。 「立て!高木ーっ!」 田辺先生は黙って座っている高木さんに大きな声で叫ぶ。 その田辺先生の声を聞いた高木さんは静かに立ち上がった。 「もう一度聞く。 お前は西片の勉強を邪魔していたのか?」 高木さんは顔を下にうつむきながら先生の質問に答える。 「・・・はい。 」 「そうか。 高木、後でちょっと職員室に来い。 」 ー その時、俺の心情はちょっと複雑だった。 確かに、高木さんは、俺が真剣に授業を受けているのを邪魔していた。 普通だったら、高木さんが先生に怒られるのは俺としては喜ぶべきなのに、なんでか俺は素直に喜べない。 それどころか、俺の心が痛んでくる。 女の子が怒られる姿を見るのは、俺としては嫌な気分になる。 ー 高木さんは、黙って椅子に座ると、机の上にあるノートに目を落とした。 心配になった俺は高木さんに声をかける。 「高木さん、大丈夫?」 だが、高木さんは俺の方には振り向かず、黙ってノートを取り始めた。 それを見た俺は、また、高木さんに声をかける。 「高木さん、」 その時、左の席に座っている三原さんが俺に声をかけてきた。 「ねぇ、西片くん。 」 声をかけられた俺は、思わず左の席に振り向く。 すると、万年の笑みを浮かべながら俺を見つめている三原さんの顔がそこにあった。 「西片くん。 良かったね。 これで安心して、授業が受けられるよ。 」 それを見た俺は、思わずゾクッとする。 この三原という女の子、なんだかヤバイ感じがする。 ー 職員室に呼ばれた高木さんは、コッテリと田辺先生に叱られた。 そして、その日の放課後。 誰も居なくなった教室に、高木さんはひとり、箒を持って立っていた。 田辺先生に叱られた高木さんは、ひとりで教室を掃除するように言われたのだ。 本来なら、俺が教室の居残り掃除をさせられていたのだが、今回は珍しく高木さんが居残り掃除をさせられている。 それを見た俺は、懸命に掃除をしている高木さんに声をかけた。 「高木さん。 」 だが、高木さんは俺の方には振り向かず、黙って掃除を続けていた。 それを見た俺は、教室にある掃除箱から箒を持ってくると、高木さんと一緒に掃除を始めた。 俺が箒を持って掃除をやり始めた事に、高木さんは黙っていた口を開く。 「あっ、西片。 別に掃除を手伝わなくてもいいよ。 私ひとりで教室の掃除をするように言われたから。 」 「いいんだよ、高木さん。 俺が居残り掃除をしている時、高木さんは俺の掃除を何度も手伝ってくれたから。 」 それを聞いた高木さんは、いつもの明るい表情に変わる。 「ありがとう、西片。 」 「う、うん。 それより早く掃除をして、俺と一緒に帰ろう。 」 「わかった。 ねえ西片。 帰る時、西片をからかってもいい?」 「怒るよ!高木さん!」 「あはははーっ!」 いつもの高木さんに戻った事で俺は安心する。 ーー だが、高木さんと俺は知らなかった。 廊下側から俺と高木さんが教室にいるのを睨みつけながら観ているひとつの影を。 「高木さん、貴方だけは絶対に許さない!私の西片くんを取ったのは絶対に許さない!!」 その影は、爪を噛みながら凄い形相で高木さんを睨んでいるあの、三原という女子生徒であった。 ー しかし、俺と高木さんはそんな事は知らず、ふたりで楽しく居残り掃除を続けていた…。
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次の1コール目。 オレは,携帯をしっかり耳に押し付けて,その音を聞いた。 高木さんが電話に出てくれたら,なんて言おうか,と頭の中で何度も何度もシミュレーションした。 2コール目。 コール音は大きく聞こえるが,自分の心臓の音も同じくらい大きい。 高木さんは,まだ出ない。 3コール目。 ドキドキして,息苦しい。 口がカラカラで,舌が張り付くようだった。 高木さん,早く出て。 4コール目。 息苦しい。 ひょっとしたら,電話番号を間違えたとか?高木さん,オレからの電話にはやっぱり出たくなくて無視してるとか?着信拒否じゃないよね? いつまで待ったら,電話を諦めなきゃいけないのだろう。 オレは,どうしたらいいのだろう。 かけ直したほうがいいだろうか。 明日にしたほうがいいだろうか。 でも真野さんは,絶対に今日かけろと言っていたし…。 5コール目。 …が鳴り始めるのと同時に,プツっと電話がつながった。 [newpage] 「…はい」 小さな,でも本物の高木さんの声だった。 はーっと息を吐いた。 いつからか,オレは息を止めていたようだった。 頭がガンガンしたけど,間違いなく高木さんの声だった。 良かった。 目がじわっとした。 「…もしもし?」 オレが何も言わないので,電話の声は,いぶかしんでいた。 しまった,早くしゃべらないと,いたずら電話だと思われてしまう。 「あ,あの,もしもし…」 「え?西片?」 それだけで,オレは昇天した。 高木さんが,『もしもし』の一言だけで,オレだと分かってくれたから。 「う,うん。 西片です」 「あはは,西片だ。 『はい。 西片です』って変だよ。 あはは」 高木さんは,声のトーンが少し低めだったし,ちょっと鼻声みたいだったけど,『あはは』という声はよく響いた。 『高木さんが泣いていた』なんて脅されて,すごく暗い雰囲気を予想していたから,笑い声には心からホッとした。 ホッとすると今度は,鼻声なのはまさか風邪ひいたわけじゃないよな,泣いていたって本当なんだな,なんて実感して,心が痛くなった。 「あの,高木さん」 「なに?」 まず,最初にこれを言おうと決めていたから。 「あの,…あのさ。 ごめん。 本当,ごめん」 ごめんなさい,と言おうか,ごめん,と言おうか迷ったけれど,『ごめん』にした。 ごめんなさい,って他人行儀すぎる。 オレは,もっと高木さんと親しくありたい,という意思表示として。 「なにが? こんな遅くに電話したこと?」 オレの言いたいことなんて分かってて,わざととぼけているのだと思った。 高木さん,鋭い人だから。 だから多分,なにも言わなくても,うやむやにしていても,話は通じるのじゃないかという気がする。 そんなふうに,オレたちは中学生活を過ごしてきた。 オレのことを全部お見通しの高木さんと,それに甘えるオレ。 でも決めたんだ。 オレは,大人になる。 高木さんに甘えてばかりじゃなくて,オレの責任で,オレの言わなきゃいけないことを,オレ自身が伝えるんだ。 深呼吸をした。 「いや,そうじゃなくてさ。 オレ,今日高木さんに本当に失礼で,ひどいことしたって思って。 だから,ごめん」 「え…」 「ほ,本当のことを言うとさ,さっき真野さんに言われるまで,そんなことも気づいてなかったんだ。 それで,オレ成長してないなってつくづく嫌になって。 高木さん『変わらないね』って言ってくれたけど,本当にその通りだったな,とか恥ずかしくってさ…」 「そ…そんなこと…」 「せっかく高木さんが会いに来てくれたのに,オレ,そのチャンスを大事にできなかった。 高木さんに聞きたいこととか沢山あったけど,これは夢じゃないかとか,あまり喜ぶと後から落とされちゃうんじゃないかとか,そんなことばかり心配になって…」 そうだった。 思い返せば思い返すほど,オレは疑心暗鬼になっていた。 高木さんの言葉や表情を信用していいのか,はかりかねていたんだ。 嬉しそうな顔に見えるけど,単にオレをからかうための表情かもしれない,なんていちいち身構えていた。 本当は,高木さんを信用しなきゃいけなかった。 高木さんが嬉しそうな顔をしてくれるのが,オレも嬉しい,と言わなきゃいけなかった。 そんなことを,どう言ったら『ちゃんと』伝わるのかを,喋りながら一生懸命考えた。 「…高木さんのこと,オレ,ほんとうに信用していたのかな,て思って。 大事な友達だったのに,そんなふうに疑っちゃうなんて,オレ最低だなとか思って。 でもオレ,高木さんに会えて嬉しかったのは,本当なんだ。 だから,ごめん」 「…」 すん,と,鼻をすする音。 オレは,痛くなるくらい携帯を耳に押し当てた。 高木さんの返事は,ない。 「電話番号を聞き忘れたのにも後から気づいて,オレ何やってんだろうってショックで。 高木さんに電話したくなかったとかじゃなくて。 オレ,高木さんに会えて舞い上がっちゃってたから…」 「... 」 「だから,ごめん。 そんなことで友達じゃなくなってしまうなんて嫌だったから。 これからも友達でいてほしい,て言いたくて…」 言いながら,本当にオレ最低な奴だ,と実感してきた。 自分でも,声が小さくなってきている,と思った。 高木さんの返事はない。 『高木さんはオレの電話を待っている』と真野さんは言っていたけれど,やっぱり迷惑だっただろうか,と不安になってきた。 友達でいてほしいとか,何気にオレは図々しいことを言っているのじゃないだろうか。 そんな言い方をしたら,高木さんは優しいからきっと嫌とは言えないし,それにつけこんでいるだけじゃないだろうか。 永遠の沈黙。 そして。 「…西片,なんか違う人みたい。 ずるい。 西片だけ格好良くなっちゃって,ずるいよ」 すん,ともう一度鼻をすする音が聞こえた。 聞き間違いだろうか。 オレは夢を見ているのだろうか。 高木さん,オレのことをゆるしてくれるのだろうか。 からかっているんじゃないよね…この期におよんで,頭の片隅でまだそんなことを考えてしまうオレは,やっぱり最低だ。 「私もね,西片のこと,からかいすぎたかなーって後悔してたんだ。 本当に西片に会えて,それで嬉しかったから,ついつい悪い癖が出ちゃった。 でも久しぶりすぎて,距離感がよく分からなくなっちゃって…」 右の耳と頬が,熱かった。 柄にもなくいろんなことを言ってしまったから顔が熱いのか,長電話で携帯が熱くなったのか,よく分からなかった。 夜中だというのに,ますます目が冴えていた。 「あの,さ,高木さん」 オレの言いたかったことは,あとひとつ。 もう,結構長いこと話をしている。 コーヒーショップで話せなかった分,いま電話で話している。 「なあに?」 静かな,甘い声だった。 「あ,あの…」 「ん?」 「あ,明日,また会えるかな」 「…」 「い,いや,無理ならいいんだけど,あの,もし時間があったらって思って…」 「…」 電話の向こうは沈黙。 すん,と鼻をすする音が,また聞こえた。 「…いや,今日あまり話ができなかったからリベンジっていうか,今度こそオレちゃんと話せそうだし,会いたいな,なんて…」 「... 西片」 「あ,いや,無理ならいいから。 また予定が合うときがあれば…」 「西片。 」 高木さんの声が,少しはっきり聞こえた。 「…いいよ。 西片が,会いたいって言ってくれるのなら。 私も,明日会いたい。 朝でも,昼でも,夜でもいいよ」 「そ,そう。 じゃあ。 …でも,大学の講義とか大丈夫?」 「大丈夫だよ,一回くらい休んだって。 それより私,西片の方が大事だから」 出た! オレの方が大事って! そんなこと言われたら,オレ期待しちゃうよ。 違う意味で,心臓がまたドキドキしてきた。 「た,高木さん,オレ…」 「え? だって,トモダチでいてくれるんでしょ?」 [newpage] 先制攻撃。 ぐぐぐ...。 でも高木さん,オレ,まだ言っていないことがある。 高木さんのことが,好きなんだ。 この世の誰よりも,好きなんだ。 もうこれ以上離れて生きていられないくらい,好きなんだ。 友達でいて欲しいって自分から言っておいて何なんだけど,本当は,『トモダチ』じゃダメなんだ。 トモダチじゃなくて,もっと特別な関係になりたいんだ。 それが,オレが今いちばん言いたいこと。 高木さんが,オレのことをどう思ってくれるのか,何て返事してくれるのか,分からない。 万が一OKだったとしても,えー聞こえないからもう一回言ってよ,とか,西片顔赤いよ,とか,絶対にからかわれる。 未来永劫からかわれる。 いや待て,むしろ突然そんなこと言ったら,ちょっと重い,とか,そういう対象じゃない,とか思われてしまうのじゃないだろうか。 久しぶりに会っていきなりそんな話されたら,普通はそうだろう。 最悪,友達でもいられなくなってしまう。 それが怖い。 オレは,人生をもう一度失ってしまう。 それは怖い。 それだけのことが,高木さんの声と一緒に,瞬間的にオレの頭のなかを駆け巡る。 好きだ,なんて言わなければ,そんな思いをしなくても済む。 これはバクチかもしれない。 負け戦かもしれない。 でも決めたんだ。 オレは,大人になる。 オレは,自分の気持ちから,逃げない。 これだけは,電話じゃなく,直接会って直接伝えたい。 打算や駆け引きなしで,オレの正直な気持ちを,オレの口から直接伝えたい。 大人になるって,きっとそういうことだから。 オレは,暴れる気持ちを一生懸命鎮める。 これ以上喋っていると,また口が余計なことを,今まだ言っちゃいけないことを,言ってしまいそうだから。 「高木さん,じゃあ,明日の朝でいい?」 「いいよ。 でも,あーあ」 「え?」 「西片のせいで,まぶた腫れちゃったよ。 明日の朝,私ひどい顔してるかも…」 オレこそ,高木さんのせいで,きっと今晩眠れない。 目が冴えまくって,眠れる気がしない。 オレこそ,明日の朝は絶対ひどい顔をしている。 それでも,そんな情けないオレでも,そのままを高木さんに見て欲しいから。 …それが,オレの新しい春だった。
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